重要判例解説(8);東京地方裁判所平成21年12月4日判決

1 事案
平成17年12月8日,Y(東京証券取引所。被告)が開設する市場に,ジェイコム株式会社の株式が上場された。発行済株式数1万4500株であった。
同日午前9時27分56秒,Yの取引参加者であるX(みずほ証券株式会社。原告)の従業員が,「61万円1株」と入力すべきところを「1件61万株」と入力して,ジェイコム株式の売り注文を出してしまった(以下,「本件売り注文」)。  
Xの端末には,「Beyond price limit」という警告画面が表示されたが,当該従業員は,Enterキーを2回押下し,「Ignore(無視)」機能を操作して,本件売り注文を行った。
その直後 Xは誤りに気付き,午前9時29分21秒に,本件売り注文の取消し注文を入力したが,Yのシステムに,このような状況下での取消し注文は実行されないという不具合があったため,その後も約定株式数は増加を続け,午前9時33分25秒には,発行済み株式数の3倍を超える4万3533株にまで達した。
午前9時35分33秒以降,Xが,自己勘定によるジェイコム株買い注文を開始したことで,本件売り注文は板から消滅した。
この結果,Xは,日本証券クリアリング機構が定めた決済条件に従って,407億7000万円を支払うことになった。
他方で,本件売り注文が出された際,Yにおいては次のようなことが起きていた。
午前9時28分頃,Yの本件銘柄担当は注文状況が大幅に変化したこと等に気付き,端末操作で本件売り注文を発見,誤発注の可能性があると認識した。
Yには「リアルタイム監視業務運用要領」が定められており,これによると,誤発注については取引参加者に照会して速やかに取り消させることになっていた。
そこで,午前9時29分46秒以降,Yの本件銘柄担当は複数回にわたってXに電話を掛けた。この電話番号は有価証券売買責任者の電話番号としてXから届けられていたものであったが,実際に出たのは有価証券売買責任者ではない従業員だった。
午前9時30分頃,本件銘柄担当は,内線でYの株式総務グループ(売買停止すべきか否かの判断を実質的に担当している部署)に本件売り注文の事実を報告した。
Xからの電話で,本件売り注文が誤発注であり,システムの不具合で取消しが出来ない状況にあることをYが知ったのは午前9時36分過ぎになってからであった。これによりYは売買停止すべきと判断したが,上述のとおり,この時には既にXが自ら反対注文を出していた。
以上の事実関係において,Xは,Yに対して,債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償として,415億7892万4570円および遅延損害金の支払いを求めた。
なお,XはYの業務規定等に従う旨の取引参加者契約をYとの間で結んでおり,
Yの取引参加者規定15条(本件免責規定)には,「Yは,取引参加者が業務上Yの市場の施設の利用に関して損害を受けることがあっても,Yに故意または重過失が認められる場合を除き,これを賠償する責めに任じない」と定められている。

2 判旨
一部認容,一部棄却。
ⅰ 本件免責規定の適用の有無について
重過失の意味について,「判例は、『ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態』を指すものと一貫して解しているところ(大審院大正2年4月26日判決・民録19輯281頁、大審院大正2年12月20日判決・民録9輯1036頁、大審院昭和7年4月11日判決・民集11巻7号609頁、大審院昭和8年5月16日判決・民集12巻12号1178頁、最高裁判所昭和32年7月9日判決・民集11巻7号1203頁、最高裁判所昭和51年3月19日判決・民集30巻2号128頁参照)、本件免責規定を含む被告業務規程等には、その範囲を特に縮小し又は拡大する規定等が存しないから、本件免責規定にいう重過失についても、上記確立した判例のいう重過失と同趣旨のものと解すべき」である。
「Yの市場では、コンピュータシステムを通じて各種の取引注文を発することが前提となっていたのであるから」、「同システムは『市場の施設』に該当」し,「Xは、同システムを通じて発した注文が実現しなかったことによって生じた損害を請求しているのであるから、このような損害は、Yの『市場の施設の利用に関して』受けた損害であるというべきであり、本件免責規定による免責範囲に含まれる」。
ⅱ Yの債務不履行ないし不法行為の有無およびYの重過失の有無について
「Yが,システム提供義務とは別個に、Xの個別の取消注文に対応してそれを処理する義務を負っていたとは認められない」が,「Yは,取消注文制度を採用していたことから、取消注文が実現されるような市場システムを提供する義務を負っていた」。しかるに,まず,「Y売買システムには、本件売り注文に関しては、Y売買システム上での取消処理が実現されないという不具合が存した一方、この不具合は解消可能であったのだから、Yの債務の履行は不完全であった」。
また,「証券取引所には、売買停止権限の行使について、一定かつ広範な裁量があるにしても、その適切な行使は、有価証券市場開設者である証券取引所に課せられた義務の一つであるところ、単なる誤注文の存在それ自体は」,「直ちには、売買の状況の異常又はそのおそれのある場合その他売買管理上売買を継続して行わせることが適当ではない場合には該当」しないが,「決済の可否に問題が生じかねない状況を認識しながらも、その点についての具体的な検討を欠いたことによる売買停止権限の不行使は、市場参加者との関係において違法となる」。本件の場合,約定株式数が発行済み株式数の3倍を超えた「午前9時33分25秒ころ」までには,「Y業務規定29条3号に基づく売買停止の立案を決定すべきであり、また、これがなされていれば、その後の決裁や売買停止オペレーションの実行に要する時間1分程度を考慮しても、午前9時35分までには、本件銘柄の売買停止が可能であった」。
Yの重過失の有無については,「回帰テストの確認を怠ったことだけでは重大な過失があるとまではいえない」が,「本件売り注文のような注文に関しては取消注文が奏功しないY売買システムを取引参加者に提供した上」、「Yの従業員としては、その株数の大きさや約定状況を認識し、それらが市場に及ぼす影響の重大さを容易に予見することができたはずであるのに、この点についての実質的かつ具体的な検討を欠き、これを漫然と看過するという著しい注意欠如の状態にあって売買停止措置を取ることを怠ったのであるから、Yには人的な対応面を含めた全体としての市場システムの提供について、注意義務違反があったものであり、このような欠如の状態には、もとより故意があったというものではないが、これにほとんど近いものといわざるを得ない」。
ⅲ 損害ならび過失相殺の可否および過失割合について
「Yは,午前9時35分00秒以後に約定した株式に係る損害を賠償する責任を負うところ」,その損害額は「150億1732万6441円となる」。
しかし,この「損害は,Yの重過失による債務不履行に、Xの重過失が競合して生じたものと認められる」ところ,「Xないしその従業員には、株数と株価とを間違えるという初歩的なミスをした上、警告表示を無視するという著しく不注意な発注操作が行われただけではなく、そのような単純な過誤による損害発生を防止するための発注管理体制等にも不備」があったことなどに照らし,「XYの過失割合は,X3割,Y7割と認めるのが相当」である。

3 解説
本件判決は,本件免責規定がコンピュータシステムの不具合にも適用されるとの判断を示した上で,本件免責規定でも免責されない重過失が存在するかを検討した。
そして,重過失については,不具合のあるシステムを取引参加者に提供し,かつ,漫然と取引停止措置を取ることを怠ったとして,重過失を認めた。
ただ,X(の従業員)にも,件数と株価を間違えるという初歩的なミスをして,それに気づかぬまま警告を無視して注文した点や,発注管理体制の不備などの重過失が認められ,本件の損害はこれらが競合して生じたものだとして,X3対Y7の割合での過失相殺を認めた。

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